正直に書こうと思います。
父の日のブレンドを設計しているとき、わたしの頭のなかにいたのは、世間一般の「お父さん」ではなく、わたしの父でした。
少しだけ、父の話をさせてください。
口数の少ない、強くて優しい人
わたしは4歳のときに、母を亡くしました。 それからは、父とおばあちゃんが、わたしを育ててくれました。
父は、怒ることがほとんどない人でした。 口数も、決して多いほうではありません。
それでも、友達がうちに遊びに来ると、なぜか変なポーズをして笑わせようとしてくれる。 友達がお泊まりに来ると、決まってカレーを作ってくれる。
家事も、おばあちゃんの介護も、わたしの世話も、仕事も。 全部、ぜんぶ、自分で背負って。
それなのに、「疲れた」とは、ひとことも言わない人でした。
強くて、優しい人。 わたしにとっての「お父さん」は、ずっとそういう人です。

父にも、飲んでもらいたかった
ヨコロンコーヒーを始めたとき、ふと思ったのです。
——この豆を、父にも、飲んでもらいたかったな、って。
父はもう、わたしのコーヒーを飲むことはできません。 目の前でコーヒーの香りを感じてもらいながら「美味しいなぁ」と笑ってもらう、その瞬間は、もう来ない。
だからこそ、今年の父の日には、世界のどこかにいる「お父さん」たちに、わたしのコーヒーを届けたいと思いました。 あなたが大切に思う唯一無二のお父さんへ、あなたから「お父さんにピッタリなコーヒーなんだよ!」なんて、いつもだったら、照れ臭くて言いにくいことも、この機会に伝えてみてはいかがでしょうか。
そんなことを考えながら、このブレンドの設計が始まりました。
主役は、ボリビアのカフェジャスミン
主役の豆は、すぐに決まりました。
ボリビアのカフェジャスミン農園。エドゥアルド・トラさんという生産者が、1985年から、たったひとり、コツコツとコーヒーを作り続けてきた農園です。

ボリビアのコーヒー産地は、かつて「世界で最も危険な道」と呼ばれた山道が、主要道路だったような場所。決して恵まれた環境ではありません。
それでもエドゥアルドさんは、品質を磨き続け、2008年にはカップ・オブ・エクセレンス(COE)を受賞しました。
その賞金で、彼は何をしたか。
長女の進学費用に使ったそうです。
「子どもたちの学ぶ道をサポートできたことが、スペシャルティコーヒー生産の大きなモチベーションになっている」——エドゥアルドさんは、そう語っています。
その一文を読んだとき、わたしは、父のことを思い出しました。
弱音を吐かずに、ただただ、子どものために働く人。 家族の暮らしを支えることを、自分の喜びだと言える人。
国も、言葉も、文化もちがうのに。 ここに、もうひとり「お父さん」がいる、と思いました。
主役は、この豆しかない。 そう思いました。
どっしりと、まろやかに
エドゥアルドさんのカフェジャスミンは、本当に表情豊かなコーヒーです。

レッドアップル、チェリー、ハーブ、シュガーケイン。 どっしりとした、まろやかな口当たり。 ハーバルなスパイス感と、しっかりとした甘みの余韻。
「お父さん」のような、どっしりとしたキャラクター。 家族を、優しく、時には厳しく守ってくれる、その手のような味。
ここに、ある豆を組み合わせました。 果実味のあるカフェジャスミンに寄り添うように、チョコレートのような甘い余韻を長く引いてくれる、相方の豆を。
果実味のフレーバーが、お父さんの厳しさだとしたら。 チョコレートのような甘い余韻は、その奥にある優しさです。
何度も試作を重ねて、ようやくたどり着いた配合です。

読んでいる、あなたのお父さんへ
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
わたしの父の話を、長々と書いてしまいました。 でも、ここから先は、あなたの番です。
このブレンドを淹れる人は、あなたかもしれない。
そして、その横で、湯気の向こうに見えるのは、あなたのお父さんかもしれない。

照れくさくて、なかなか「ありがとう」と言えない人もいると思います。 遠くに住んでいて、もう何年も会えていない人もいるかもしれません。 わたしのように、もう、会いたくても会えない人もいるかもしれません。
それでも、コーヒーは、言葉のかわりになってくれます。
豆を挽く時間。 お湯が落ちる、あの数十秒。 最初のひと口の、まろやかな甘み。
そのぜんぶが、あなたとお父さんの、静かな会話になる。 そんな一杯になればいいなと、心から思っています。
Father's Day Blend 2026 ボリビア・カフェジャスミン主役の、特別なブレンド。 レッドアップル / チェリー / ハーブ / シュガーケイン / チョコレートの余韻
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ヨコロンコーヒー 代表 大山

