病気をしてから、気がついたことがある。
丁寧に作られたものの前では、なぜか胸の奥がじんとする。
誰かが時間をかけて、想いを込めて作ったもの。
手間を惜しまず、ちゃんと向き合って生まれたもの。
そういうものが、以前よりずっと、深く届くようになった。
2023年、乳がんを経験した。
詳しくは語らない。ただ、あの時間の中で、わたしはたくさんのことを手放し、たくさんのことを受け取った。
そのひとつが、「丁寧に作られたものへの、深い敬意」だったと思う。

焙煎所に立つ朝、豆と向き合う時間がある。
焙煎機の熱が上がっていく音を聞きながら、今日の豆のことを考える。どこで育ったか。誰の手が関わったか。どんな気候の中で実ったか。
たとえばケニアのカラツ地区では、700人以上の小規模農家が丁寧に実を選り分け、一粒ずつ手で処理した豆が集まってくる。
ボリビアのエドゥアルドさんは、コーヒーの品質を高めるために何年もかけて農園を改良し、その賞金を娘の進学費に充てた。
メキシコのマヤビニック協同組合は、マヤの先住民族がご先祖から受け継いだ土地と農法を、今も大切に守りながら豆を育てている。



そういう話を知ると、この豆をいい加減に焙煎することなんて、とてもできない、と思う。
人の手と、人の想いが、ここまで届いている。だから、わたしも丁寧に返したい。
ヨコロンCoffee焙煎所では、毎日少量ずつ豆を焙煎している。
受注してから焙煎するのではなく、毎朝焙煎所に立ち、その日に仕上げた豆をお届けする。
大量に作って効率よく——とはいかない方法かもしれない。
でも、それがわたしにとって「丁寧に作る」ということの、いちばん素直な形だと思っている。

焙煎は、生産者から受け取ったバトンを、お客様へ渡す仕事だと思っている。
渡すまでの間、このバトンを丁寧に持っていたい。それだけを、毎朝考えている。
「丁寧に作られたものは、尊い。」
これが、ヨコロンCoffeeのいちばん奥にある言葉です。
コーヒーだけのことを言っているわけじゃない。
生産者の手仕事も、焙煎所での時間も、そしてあなたが一杯を淹れるその瞬間も、全部ひっくるめて、そう思っている。
誰かが丁寧に関わったものが、あなたの手に届く。
そしてあなたが、丁寧にそれを受け取る。

その小さな連鎖の中に、わたしはとても尊いものを感じる。
与論島の試飲会で、はじめてヨコロンCoffeeのコーヒーを島の方々に飲んでいただいた日のことを、今でも思い出す。
病気をしてから、「いつかこんな日が来るといいな」と思い描いていた場面が、ゆっくりと現実になっていく。

あの日のことは、他のブログでも書いたが、私にとってとてもとても特別で、宝物のような日々です。
そして、与論島のemaさんにて、ヨコロンCoffeeがいつでも購入できるという環境にあることにも、感謝です。

人から人の手に渡り、その先の人の心があったかくなる。
そんな一杯であれたら、と思っています。
ヨコロンCoffee焙煎所のコーヒーは、神戸・灘区の焙煎所と、オンラインショップで手に取っていただけます。
与論島のGallery & Shop Yoron emaでも、ご購入いただけます。
私たちが焙煎した一杯が、あなたの時間に寄り添えたら、うれしいです。

大山洋子

