焙煎機のスイッチを入れると、
小さなモーター音とともに、空気の温度が少しずつ変わっていきます。
焙煎は気温や天気によって変化します。今日の焙煎は今日だけのもの。
この空間の中で、今日のコーヒー豆が少しずつ生まれていく。
豆が熱によって弾ける音も毎回異なります。
やがて甘みを帯びた香ばしさがふわりと広がります。
私はいつも、この瞬間に立ち会うたび、
「この仕事を始めてよかった」と思います。
コーヒーを煎るという行為は、
ただ技術や温度を管理するものではなく、
“時間の流れそのもの”と向き合う仕事だと感じます。
少し焦れば、苦みが強くなり、
待ちすぎれば、香りが抜けてしまう。
焙煎とは、まるで人の心のように、
微妙な“ちょうどよさ”を探す作業です。

YokoronCoffee Roastery が目指すのは、
派手な味でも、強い香りでもありません。
心が静かにほどけていくような、
“やさしさの温度”を持つコーヒーです。
誰かの一日が少しでも穏やかになるように。
今日を終える前に、
自分をいたわる時間が生まれるように。
焙煎機の中で転がる豆を見つめながら、
私たちはその願いをひと粒ずつに込めています。

コーヒー豆を煎る世界へ足を踏み入れた日から、
この香りと共に生きていこうと決めました。
——この小さな焙煎所から、
誰かの暮らしに、やさしい余白を。